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東京地方裁判所 平成2年(ワ)6567号 判決

東京都中央区銀座一丁目九番八号

原告

株式会社活人堂シネマ

右代表者代表取締役

柴田輝二

右訴訟代理人弁護士

楯香津美

東京都豊島区西池袋五丁目二二番一号

被告

盲導犬普及ボランティアグループこと

田中彰

主文

一  被告は、原告に対し、二六五万円及びこれに対する平成二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成二年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、映画の製作を業とする会社である。

(二)  原告は、失明した少女が失意の中から立ち直り、盲導犬とともに明るく暮らしていく状況を描いた映画「しのぶの明日」(以下「本件映画」という。)の製作を企画し、昭和五九年九月ころ、その製作を完成した映画製作者である。また、本件映画の製作については、原作、脚本、製作を原告代表者である柴田輝二、監督を上野英隆、プロデューサーを船津英恒、撮影を原一民、美術を坂口岳玄、録音を渡会伸、音楽を森岡賢一郎が各担当し、右柴田輝二らは、本件映画の製作過程の全般に創作的に寄与し、本件映画製作に際して、原告に対し、本件映画の製作に参加する旨を約していた。

右のとおり、原告は、本件映画の著作権を取得し、現にこれを有している。

(三)  原告は、昭和六一年暮れころ、本件映画のカセットビデオテープ化を計画し、昭和六二年四月ころ、本件映画のカセットビデオテープ(以下「本件ビデオテープ」という。)を作成した。

2  被告は、盲導犬普及ボランティアグループと称し、慈善活動を行う民間団体であるかのように装ったうえ、昭和六二年春ころから平成二年末ころまでの間、「チャリティー頒布ハンドグリップ二〇〇〇円」と記載したダイレクトメールに、本件ビデオテープの無料貸出しの案内状を同封して、粗悪品のハンドグリップ(仕入れ価格一〇〇円)を年間平均一〇万人にいきなり郵便で送り付け、慈善活動の一環と考え、その購入を容認する者には右代金を送金させるという形式で販売した。そして、被告は、本件ビデオテープの貸与を希望する者に対して、本件ビデオテープを複製したビデオテープ(以下、本件ビデオテープの複製ビデオテープを「本件複製テープ」という。)を、これが著作権者である原告の許諾を得ずに複製されたものであることを知りながら、次の者に無料で貸し出した。

昭和六二年度 五〇八団体(延べ三万二三三六名)

昭和六三年度 五〇〇団体

平成元年度 六五〇団体(延べ三万五〇〇〇名)

平成二年度 少なくとも別紙貸与先一覧表記載の小林まゆみ外一六名

右のとおり、被告は、本件複製テープを無償で貸与して頒布し、原告が本件映画について有する著作権(頒布権)を侵害したものである。

3  損害

(一) 主位的請求(民法七〇九条による得べかりし利益の主張)

(1) 原告は、昭和六三年、全国盲導犬協会連合会の全国組織と提携して本件ビデオテープの販売を計画し、本件ビデオテープを一本一万五〇〇〇円、販売本数五〇〇〇本の予定で同協会と交渉していたが、被告が、前記2のとおり、本件複製テープを無償貸与したため、本件ビデオテープの販売計画は水泡に帰した。この販売計画における本件ビデオテープの売上げ予定高七五〇〇万円のうち、ビデオテープの複製、販売業者に対する諸経費は、五五〇〇万円であるから、被告の前記2の著作権侵害行為による逸失利益は少なくとも二〇〇〇万円である。

(2) 仮に、右主張が認められないとしても、被告は、ジックス出版部と称して、昭和六二年五月一〇日、原告の販売代理店である株式会社オールビジュアル(以下「オールビジュアル」という。)との間で、原告から本件ビデオテープ一〇〇本を代金三五〇万円で購入することを保証する旨の販売契約を締結していたから、原告は右三五〇万円の利益を得ることができたものである。ところが、被告は、前記のとおり、原告に無断で複製された本件複製テープを取得して、本件ビデオテープ一〇〇本を購入しなかったから、原告は右得べかりし利益を喪失した。したがって、原告は、被告の著作権侵害行為により、三五〇万円の損害を被った。

(二) 予備的請求

(1) 著作権法一一四条一項の損害

被告は、前記のとおり、三年間にわたり、毎年五〇〇団体以上の貸与先に貸し出していたのであり、このように多数の団体に貸し出すには、本件複製テープが毎年五〇本以上必要であったものというべきであるから、本件ビデオテープを右三年分で少なくとも合計一五〇本は購入すべきであったところ、被告は、原告に無断で複製した本件複製テープを無償で取得してこれを購入せずに済んだものであり、本件ビデオテープの代金が一本につき一万円であるから、その一五〇本分の代金相当額一五〇万円の支払を免れるという消極的な利益を得たものである。もっとも、未録画(新品)のカセットビデオテープ(三本で二〇〇〇円)一五〇本分の代金額が合計一〇万円であるので、これを控除した一四〇万円の限度で利益を受けたこととなる。したがって、原告は、被告の著作権侵害行為により、一四〇万円の損害を被ったものである。

(2) 無形の損害

原告は、本件映画のみならず、両腕を欠損している主人公が強く、明るく暮らしていく生活を描いた映画「典子は、今」を製作するなど、身体障害者に関する映画を製作して、障害者問題を提起し、障害者に対する社会の理解を深めるなど、その啓蒙を図っていたものであり、映画関係者からも高い評価を得ていた。

しかるに、被告の商品販売方法は前記2のとおりであって、右商品販売が慈善活動に名を借りた押付け販売として社会的に強い非難を受けるべきものであり、現に、購入者等から消費者センター等に苦情が殺到し、原告に対しても、同様の苦情が多数寄せられている。被告の本件ビデオテープの無料貸出しが、このような販売活動の促進のために利用されたものであることは明らかであって、原告は、被告の右行為により、原告が被告の商品販売に加担していると誤解されるなどし、その社会的な評価又は名声を著しく低下せしめられた。

原告が、被告の著作権侵害行為により被った無形の損害は少なくとも一八六〇万円である。

(3) 右(1)及び(2)の損害額を合計すると、二〇〇〇万円となり、これが、原告が被告の著作権侵害行為により被った損害額である。

4  よって、原告は、被告に対し、本件映画の著作権侵害による損害賠償請求権に基づき、金二〇〇〇万円及び不法行為の日の後である平成二年六月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(三)の事実は認める。

2  同2の事実のうち、被告が、盲導犬普及ボランティアグループと称し、昭和六二年春ころから平成二年春ころまでの間、「チャリティー頒布ハンドグリップ二〇〇〇円」と記載したダイレクトメールに、本件ビデオテープの無料貸出しの案内状を同封して、ハンドグリップを郵送し、その購入を容認する者に右代金を送金してもらうという形式で販売したこと、被告が本件ビデオテープの貸与を希望する者に対し、本件ビデオテープ又は本件複製テープを五〇八回の範囲内で無償で貸与していたことは認め、その余は否認する。

3  同3の事実はいずれも否認する。

4  同4は争う。

三  被告の主張

1  原告は、昭和六二年一〇月ころ、高橋威夫を介して被告に対し、被告が本件ビデオテープを約三〇本複製し、複製したビデオテープを無料で貸与することについて許諾した。すなわち、被告は、昭和六二年四月ころ、原告から、本件ビデオテープ一〇本を代金三五万円で買い受けたが、その際、営利の目的で販売したり、無断複製しない等の条件のもとに、本件ビデオテープの無料貸出しについて許諾を受けた。ところが、その後、購入した一〇本では不足するうえ、本件ビデオテープの価格が余りに高価すぎるため、被告は、小倉末廣や高橋威夫を通じて、原告と既に購入した一〇本について一本の価格を一万円程度に値下げすること、その結果生ずる既払分との差額分については本件ビデオテープ二〇本ないし三〇本程度を無償で追加提供すること等を交渉した。その結果、原告は、昭和六二年一〇月ころ、高橋威夫を通じて、小倉に対し、本件ビデオテープを三〇本程度複製すること、及び被告が右複製したビデオテープを第三者に対して無償で貸し出すことを許諾した。

2  仮に、原告が許諾したとの右1の主張が認められないとしても、オールビジュアルは、遅くとも昭和六二年一〇月ころ、原告に代わって、被告又は小倉との間で、本件ビデオテープの複製及び右複製したビデオテープの貸与について許諾する権限を有していたものであるところ、その代表者である高橋威夫は、昭和六二年一〇月ころ、小倉に対し、本件ビデオテープを三〇本程度複製すること、及び被告が右複製したビデオテープを第三者に対して無償で貸し出すことを許諾した。

3  なお、被告は、盲導犬もしくは視覚障害者への理解を深めるため、右許諾の範囲内で、貸与希望者に無償で本件複製テープを貸与したものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、原告が、被告主張のころ、被告に対し、本件ビデオテープ一〇本を被告主張の代金額で販売するとともに、右一〇本のテープを被告主張のような条件のもとに無料貸出しすることを許諾したことは認め、その余は否認する。

2  同2の事実は否認する。

3  同3のうち、被告が本件複製テープを無償で貸与していたことは認め、その余は否認する。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2の事実のうち、被告が、盲導犬普及ボランティアグループと称し、昭和六二年春ころから平成二年春ころまでの間、「チャリティー頒布ハンドグリップ二〇〇〇円」と記載したダイレクトメールに、本件ビデオテープの無料貸出しの案内状を同封して、ハンドグリップを郵送し、その購入を容認する者に右代金を送金してもらうという形式で販売したこと、被告が本件ビデオテープの貸与を希望する者に対し、本件複製テープを無償で貸与していたこと、被告が本件ビデオテープ又は本件複製テープを五〇八回の範囲内で無償貸与したことは当事者間に争いがない。

また、成立に争いのない甲第一ないし第六号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一六、第三五ないし第三九号証、証人小倉末廣の証言、被告本人尋問の結果(第一回)(但し、後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被告は、原告から購入した一〇本の本件ビデオテープと本件複製テープとを、昭和六三年に二七九回、平成元年に三三一回、平成二年度に六三回を下ることなく、合計六七三回を下ることなく無償貸与していること(五〇八回の範囲内では争いがない。)、(2)小倉末廣は、本件複製テープ四五本を製作しこれらを被告に引き渡したこと、(3)被告は、原告から購入した本件ビデオテープ一〇本と、本件複製テープ四五本とを右無償貸与の用に供していたこと、したがって、右(1)の無償貸与回数のうち、本件複製テープによるものは合計で五五〇回であり、そのうち「七回の貸与先は別紙貸与先一覧表記載のとおりであることが認められる。

なお、被告は、本件複製テープは全部で三〇本程度である旨主張し、右主張に沿う乙第八号証の記載部分、証人小倉末廣、被告本人(第一回)の各供述部分もあるが、捜査段階における被告及び被告の従業員古矢薫の供述調書である前掲甲第三五ないし第三九号証の記載に照らして採用することができず、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はなく、また前記認定を左右するに足りる証拠もない。

右認定事実によると、被告は本件複製テープを昭和六二年春ころから平成二年一二月四日までの間、五五〇回にわたり無償貸与して頒布していたことが明らかである。

三  そこで、原告が小倉や被告に対し本件複製テープの製作及び無償貸与を許諾していたか否かについて、判断する。

前掲甲第一ないし第六号証、第一六、第三五ないし第三九号証、成立に争いのない甲第一三、第一四号証、第四六号証、乙第一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第四〇ないし第四三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二号証の一、二、証人高橋威夫の証言、証人小倉末廣の証言(措信しない部分を除く。)、原告代表者尋問の結果、被告本人尋問(第一回)の結果(措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告は、「盲導犬普及ボランティアグループ」と称して、また「盲導犬の普及にご理解を」というキャッチフレーズで、商品を送り付けては寄付を募るという商品販売を行い、年間数千万の利益を上げていたが、新聞等において度々取り上げられ、福祉の名に便乗する悪徳商法であるとして強く批判され、消費者センターや福祉関係団体にも苦情が相次いでいた。

2  被告は、「盲導犬の寄贈」と称する活動ができなくなったため、それに代わって商品販売を促進するものとして、本件映画を利用しようと考え、原告との間で、〈1〉原告が被告に対し、盲導犬普及活動のために本件映画のビデオテープを取り敢えず一〇本販売すること、〈2〉原告は、被告が右ビデオテープを盲導犬普及活動のために講演会等で上映したり、無償で貸し出したりすることについて許諾すること、〈3〉被告は右ビデオテープを営利の目的で販売したり、複製したりしないこと等を合意したうえ、昭和六二年四月ころ、本件ビデオテープ一〇本を代金三五万円で買い受けた。原告は、この当時、被告が真面目に盲導犬普及活動を行っているものと信じていた。

3  被告は、昭和六二年春ころから、盲導犬普及ボランティアグループと称して、ダイレクトメールを多数郵送し、身体障害者のための慈善活動を標榜しながら、仕入れ原価が一〇〇円程度のハンドグリップを二〇〇〇円で購入するよう勧誘するとともに、本件ビデオテープの無料貸出しの案内状を同封して、右商品の販売があたかも盲導犬普及のボランティア活動の一環であるかのように見せ掛けていた。

4  被告は、当初購入した本件ビデオテープ一〇本を無償で貸し出していたが、その後、右テープが少なくとも数日間は貸与先に留め置かれ、その返還も滞りがちであって、実際に返還されるテープは半分以下という状況であったため、貸出用のビデオテープに不足を来たし、本件ビデオテープの代金支払を免れるため、小倉にその複製を依頼し、小倉は、本件複製テープ四五本を製作した。その間、被告又は小倉が、原告に対し、本件ビデオテープを複製したり無償貸与することについて許諾を求めたことはなく、また原告自ら又は高橋威夫を介して、被告又は小倉に対し、これを許諾したこともなかった。

5  原告は、昭和五六年に、両腕を欠損している主人公が強く、明るく暮らしていく生活を描いた映画「典子は、今」を製作し、障害者問題を提起するとともに、視覚障害者もしくは盲導犬に関して理解を深めようと、本件映画を製作し、本件映画は視覚障害者もしくは盲導犬に関する映画として国内で相当に高い評価を得ていた。

以上の事実が認められ、右に認定の事実に前記二の事実を総合すると、被告は、昭和六二年春ころから平成二年一二月四日ころまでの間、原告の許諾を得ることなく複製された本件複製テープ四五本を、その情を知りながら貸し出して頒布したものであって、原告の有する本件映画の著作権(頒布権)を侵害したものであることが明らかである。

被告は、原告から、被告若しくは小倉が本件ビデオテープを複製すること及び本件複製テープを無償で貸与することについて許諾を受けていた旨主張するが、前記認定のとおり、原告は、被告に対し、本件ビデオテープ一〇本を代金三五万円で販売するとともに、営利の目的で販売することや無断復製しないこと等を条件として、本件ビデオテープを無償で貸出しすることを許諾しているものの、右一〇本の本件ビデオテープの他に、被告においてこれを複製し、あるいはこれを無償で貸与することについて許諾していないことが明らかである。

四  原告の被った損害について検討する。

1  主位的請求(民法七〇九条による得べかりし利益の主張)について

(一)  原告は、昭和六三年、全国盲導犬協会連合会に対し、本件ビデオテープの販売を交渉し、本件ビデオテープを一本一万五〇〇〇円、販売本数五〇〇〇本の販売を予定していたが、被告が、本件複製テープを無償貸与したため、右販売計画が水泡に帰し、そのため、原告は、少なくとも二〇〇〇万円の得べかりし利益を失い、損害を被った旨主張する。

前掲甲第四六号証及び原告代表者尋問の結果によれば、原告代表者は日本盲導犬連合会と、本件ビデオテープ五〇〇〇本を市場価格一万五〇〇〇円で同連合会に販売し、そのうちの二〇〇〇万円を原告の利益として取得することを内容とする話合いを行っていたこと、その後右話合い内容が実現するに至らなかったことが認められるが、右はまだ話合い途中の段階であって確定的な合意内容ではないし、仮にこれが確定的な合意であるとしても、右証拠のみでは、この合意が実現されなかったこと、ひいては原告において右利益二〇〇〇万円を得られなかったことと、被告の本件複製テープの無償貸与行為との間に相当因果関係があるとは認めることができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(二)  また、原告は、昭和六二年五月一〇日、ジックス出版部こと被告との間で、被告が原告から本件ビデオテープ一〇〇本を代金三五〇万円で購入することを保証する旨の販売契約を締結していたから、右三五〇万円の利益を得ることができたところ、被告が、本件ビデオテープの無断複製品を取得して真正品を購入しなかったから、右得べかりし利益三五〇万円の損害を被った旨主張する。

原本の存在及び成立について争いのない甲第四七号証、証人高橋威夫の証言によると、原告と被告は、昭和六二年五月一〇日、被告が原告から本件ビデオテープを購入すること、被告において、その最低購入本数として一〇〇本を保証すること、右保証にかかる一〇〇本についてはその販売価格を一本当たり三万五〇〇〇円とすることを内容とする契約を締結したこと、その後被告は本件ビデオテープを一〇本購入したのみで、その後は購入していないことが認められる。この認定事実と、前記二で認定した小倉による複製の事実及び被告による頒布の事実とを合わせ考慮すると、複製行為と本件ビデオテープの最低保証本数により得る利益との相当因果関係についてはともかく、頒布行為と右利益との相当因果関係については認めることはできず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

2  予備的請求について

(一)  著作権法一一四条一項の損害について

原告は、被告が、無断複製品である本件複製テープを少なくとも一五〇本以上取得し、真正品を購入せず、その代金相当額一四〇万円の代金支払いを免れて消極的な利益を得た結果、これにより、一四〇万円の損害を被った旨主張する。

しかしながら、被告が真正品を購入せず、そのために支払わなかったその代金額を被告が頒布行為により受けた利益ということはできないから、原告の右主張は採用することができず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(二)  著作権法一一四条二項の損害について

前記のとおり、原告の主張する民法七〇九条に基づく得べかりし利益による損害も、著作権法一一四条一項の損害も認めることはできないから、同二項に規定する損害の額について検討することとする。

前記三の認定事実によれば、被告のハンドグリップ等の商品販売は福祉に便乗した悪質な押付け販売として新聞等に取り上げられ、社会的に強い非難を浴びたものであり、本件ビデオテープ又は本件複製テープの無償貸与もこのような商品販売を促進する目的でなされていたものであって、障害者問題に真摯に取り組み、障害者への理解を深めようとして本件映画を製作した原告において、右のような事情を知るならば、本件ビデオテープの無償貸与を到底許諾することはないものと認められる。右認定のような原告側の状況や、被告における本件ビデオテープ又は本件複製テープの貸出しの態様、回数、期間等、更にはこれまで認定してきた本件に特有の諸事情を総合して考慮すると、本件における本件映画の著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額は、本件ビデオテープの市販価格の二〇パーセントを下ることはないものと認められる。また、原告代表者尋問の結果によると、原告から被告に販売された本件ビデオテープの価格は、一本当たり三万五〇〇〇円であるものの、これは一般向けの販売前であったこと等による特別価格であって、一本当たりの通常の市販価格は一万五〇〇〇円であることが認められる。

したがって、前記認定のとおり、頒布回数は五五〇回であるから、原告が本件映画の著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額は、次式のとおり、一六五万円となる。

一万五〇〇〇円×〇・二×五五〇=一六五万円

(三)  無形の損害について

前記三の認定事実及び前掲各証拠を総合すると、被告のハンドグリップ等の商品販売は、盲導犬普及という慈善活動というよりは、営利追求を主たる目的とした商品販売であり、いきなり商品を相手方に送り付けるのみならず、慈善活動であると誤解して商品を購入した者の善意に付け込んで利益を得ようとする点においても問題があり、また、福祉に便乗した悪質な押付け販売として新聞等に取り上げられ、社会的にも強い非難を浴びたものであること、被告が右のような商品販売を促進するため、無断複製品である本件複製テープを無料で貸し出したものであり、盲導犬普及のための真面目な活動をしていると信じて本件ビデオテープの無償貸出を了承した原告の期待を裏切っただけにとどまらず、右商品を購入した者から苦情を寄せられるなどして、原告がこのような被告の商品販売に協力しているかのように誤解される結果を生じたこと、障害者問題に積極的に取り組み、障害者に関する問題提起をし、あるいは障害者への理解を深めようとして映画を製作していた原告が、美名の裏で実は営利追求の商品販売に係わっていたかのような疑念を生み、その社会的評価を低下せしめられたであろうこと、以上の事実を認めることができる。

右認定の諸点に鑑みれば、原告が被告の行為により被った無形の損害は、これを金銭的に評価すると、金一〇〇万円と認めるのが相当である。

五  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、二六五万円及びこれに対する平成二年一二月四日(認定にかかる最終の著作権侵害行為の日)から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、仮執行宣言免脱の申立ては相当でないからこれを却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条一項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)

貸与先一覧表

No. 頒布年月日(平成・ころ) 頒布場所         頒布の相手方    数量(巻)

1 二・五・一〇 埼玉県所沢市泉町一、八二一番一五号 小林まゆみ方 小林まゆみ 一

2 二・七・三 神奈川県横浜市緑区霧ヶ丘四ノ四 横浜市立霧ヶ丘中学校 飯野智子 一

3 二・七・一六 栃木県足利市通二丁目三、六一八番地 株式会社フタバ堂 兵藤豊作 一

4 二・七・二七 鹿児島県大島郡徳之島町亀津二、八五二番地 三島正雄方 三島正雄 一

5 二・七・三一 神奈川県川崎市川崎区駅前本町五ノ四 殖産住宅相互株式会社川崎支店 根岸正雄 一

6 二・九・六 東京都東大和市奈良橋二丁目三五六番地二九号 河内一郎方 河内節子 一

7 二・九・七 埼玉県川越市岸町三ノ一七ノ三二 松田芳子方 巣山竹子 一

8 二・九・二八 東京都町田市本町田三、五四〇番地三三号 関口早苗方 関口早苗 一

9 二・一一・一三 大阪府大阪市住之江区平林南一ノ六ノ二六 富洋木材株式会社 横尾正治 一

10 二・一一・二二 佐賀県小城郡小城町大字松尾四、一〇〇番地 小城町立病院 古賀明義 一

11 二・一二・一 神奈川県平塚市明石町七番五号 共立総業株式会社 山田和江 一

12 二・一二・三 神奈川県横須賀市武四丁目三九番地 マルフジ住宅株式会社 志村良三 一

13 右同日 兵庫県加古川市加古川町北在家七七番一号 株式会社フジヤ號 竹位賢二 一

14 二・一二・四 東京都千代田区神田佐久間町一丁目一四番第二東ビル三〇一号 株式会社パワーテック 井上智世江 一

15 右同日 埼玉県北葛飾郡吉川町上内川九四〇番 ファネス重工株式会社 坂本ミツ子 一

16 右同日 兵庫県高砂市阿弥陀町阿弥陀一、七三二番地八号 古門成喜方 古門成喜 一

17 右同日 大阪府大阪市福島区大開二丁目一九番三号 吉田元工業株式会社 吉田元三 一

合計 一七名 一七巻

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